アブダビWPJJC日本予選2013 大会レポート
2013年2月3日(日)、東京・駒沢オリンピック公園屋内球技場において、『アブダビWPJJC(ワールド・プロフェッショナル柔術選手権)日本予選2013』が開催された。この会場には暖房設備がなく厳しい冷え込みとなったものの、日本各地から参加者200名が集結。4月のアブダビ本戦出場を懸け、参加選手たちの好試合が続いたため、場内は熱気に包まれていった。
大会は前半1部と後半2部に分かれ、1部で行なわれた各階級のトーナメントの結果により、1位から3位までの入賞者が2部への参加ができ、2部はWPJJCで定められているクラス別で行なわれ、優勝者にアブダビ本戦への旅行パックが授与された。
2部の男子カテゴリーでは、激戦を勝ち抜いた末、白帯アダルト無差別級でレキ・ガブリエル選手が優勝の表彰台に昇ったのに続き、青帯アダルト・ライト級オープン(メジオ級以下)が順次スタート。トーナメントには16名がエントリーし、熱戦が繰り広げられた。決勝に進んだのは城田和秀選手とジャクソン・ハックウェル選手。柔道の有段者で、アマチュア総合格闘技の全日本王者でもある城田選手は、1部のトーナメントの中で31ポイントもの大量得点をした試合もあり、優勝候補の一人と目されていた。
しかし、ジャクソン選手は多彩なテクニックを駆使して城田選手を翻弄。最後は見事な腕ひしぎ十字固めを決めて勝利を収めた。もう一つの階級、青帯アダルト・ヘビー級オープン(メイオペサード級以上)では、ギエドレ・オオタ選手がポイント6-0で決勝戦を制し優勝。
紫帯アダルト・ライト級オープンは2部で最多人数の24名がエントリー。青帯ライト級オープン同様に熾烈な試合が随所で展開された中、ヴァンデルレイ・タカサキ選手と世羅智茂選手が決勝へ辿り着いた。両者のスピーディな攻防が続くが、世羅選手が次々とポイントを重ねる。ヴァンデルレイ選手は凌ぎつつ反撃をうかがうも一歩及ばず、一瞬のチャンスをものにして腕十字を決めた世羅選手が一本勝ちで優勝。
紫帯アダルト・ヘビー級オープンは、関根秀樹選手が2試合で勝利の末、危なげなく優勝を遂げた。2012年のアブダビ本戦では+100㎏級で準優勝している関根選手。今年の本戦は、もう一つ上のメダルを目指して準備を万端にして臨む。
茶帯と黒帯は合同の試合で-65㎏、-74㎏、-83㎏、-92㎏、+92㎏の5階級で行なわれた。4名エントリーの-65㎏級は黒帯の山田悦弘選手黒帯がポイント13-0で一回戦を勝利、決勝は茶帯の花輪裕樹選手をアドバンテージ3-0で破り優勝した。タップこそ奪えなかったものの、腕ひしぎ三角固めや足首固めを決めかけるなど、ほぼワンサイドの黒帯らしい闘いぶりを披露した。
-74㎏級はエントリー9名で争われた。注目されたのは、紫帯の時代から数々の成績を残し、満を持して茶帯になったクレベル・コイケ選手。アンデルソン・タカハシ選手、黒帯のチャールズ・ガスパー選手にポイント差で勝利し、決勝戦へと進んだ。決勝の相手となった細川顕選手は黒帯で3年のキャリアがある。準決勝で黒帯のアサダ・トシオ選手を一本勝ちで破って調子も上々の細川選手に、クレベル選手が挑む形となった。
リバーサルのアドバンテージで先にリードしたのはクレベル選手。しかし細川選手は落ち着いた様子でクレベル選手に対峙する。下のポジションから形を作っていくクレベル選手、上のポジションで対応する細川選手という攻防が続く。その後、クレベル選手のガードを超すようにして細川選手が横バックに付き襟絞めを狙う。それを嫌がるように距離を取ろうとするクレベル選手。すかさず細川選手がクレベル選手の左腕を捕えて腕十字を狙う。クレベル選手が立ち上がって逃れようとするが、細川選手は三角絞めの体勢に。
一つの技が掛からなければ別の技へとスイッチしていき、遂に腕ひしぎ三角固めを決め、クレベル選手がタップ。勢いのあるクレベル選手も、まだ茶帯で6ヵ月ゆえに黒帯の壁にはね返される結果となった。
過去に細川選手は黒帯でクロン・グレイシー選手、マイケル・ランギ選手ら世界トップクラスの強豪と試合をしてきた。そうした経験値が、この試合でも発揮されたと言える。クレベル選手について「茶帯ですが強い選手ですし、やり難さはありました」と吐露した細川選手。そんなプレッシャーをはねのけ、見事な勝利を飾った。4月のアブダビ本戦については「強豪ばかりだと思いますが、ベストを尽くして良いところ(成績)を獲りたいです」と意気込みを語った。自身のキャリアに、また一つ勲章が増えることを期待したい。
-83㎏級の決勝も注目の対戦となった。もはや日本を代表する柔術家の一人と言えるホベルト・サトシ・ソウザ選手が危なげなく勝ち上がる。一方、反対のブロックからは、こちらも日本の柔術界を牽引してきた“アマゾン”こと杉江大輔選手が決勝へ進出。準決勝でサトシ選手は腕ひしぎ三角固め、杉江選手が裸絞めと、両者揃って一本勝ちを収めている。果たして決勝も一本決着となった。
それぞれのポジションで試合を作る両者。下からチャンスをうかがうサトシ選手、上から攻めどころを探る杉江選手。サトシ選手は軟体ガードのような体勢で、背中で回転しながら杉江選手に的を絞らせない。そこから隙を突いて、両足を突っ込むようにして杉江選手に絡め、三角絞めの形へ。脱出を試みる杉江選手を捕え、技をタイトにして一気に三角絞めで決めてみせた。また強豪の一人を破ったサトシ選手。2012年のアブダビ本戦-76㎏級優勝に続き、黒帯での2連覇の期待がかかる。
-92㎏級は盤石の強さで“マルキーニョス”ことマルコス・ソウザ選手が優勝。決勝では黒帯を巻いて間もないファビオ・スガワラ選手を相手に横綱相撲。あっという間にチョークでタップを奪ってみせた。ちなみに1部のトーナメントでは、同じ階級に杉江選手がエントリーしたため、勝ち上がった両者が決勝で対戦することとなった。両者は8年前にも対戦しており、その時はマルコス選手が勝利を収めている。そして今回もマルコス選手がチョークで見事な一本勝ち。先制のテイクダウン、マウントポジションを奪い、最後はラペラチョークを決め、ほぼワンサイドの圧勝と言えた。
一方、体格差を恐れず闘った杉江選手の勇気にも拍手を送りたい。実はマルコス選手が初めて日本で柔術の試合をした相手が杉江選手だった。そんな縁のある相手との再戦というマルコス選手のサイドストーリーも今大会で見ることができた。アブダビ本戦でのマルコス選手には、杉江選手の分まで大暴れを期待したい。
+92㎏級は3名がエントリーし巴戦が行なわれた。両者共に黒帯のホドリゴ・カバウカンチ選手を破った茶帯のクリモリ・サダヨシ選手、同じく茶帯の加藤隆弘選手が決勝戦で対峙。1部ではメイオペサード級出場のクリモリ選手、一方の加藤選手はペサディシモ級。重量級の闘いは力のこもった激しい攻防が続き、一進一退となる。そんな中、クリモリ選手がポイントでリードすると、そのままリードをキープして優勝を決めた。この階級は、黒帯を破り、自身より重い階級の選手を破った茶帯のクリモリ選手が日本代表としてアブダビ本戦に臨むこととなった。
2部の女子カテゴリーは3階級が行われた。白帯と青帯の合同の無差別級では、伸び盛りの新鋭、湯浅志澄歌選手が腕十字で谷野香里選手を決勝で破り優勝。
紫帯・茶帯・黒帯合同のライト級オープン(レーヴィ級以下)は紫帯の湯浅麗歌子選手が優勝をもぎ取った。一回戦は茶帯の高橋美季選手に腕ひしぎ三角固めで勝利。決勝は黒帯の塩田さやか選手が相手となった。塩田選手の得意の足関節狙いを冷静に対処する湯浅選手。両者の動きが少ない中、一瞬の仕掛けで湯浅選手が巴投げリバーサルを試みる。これがアドバンテージとなり、湯浅選手がリード。取り返そうとする塩田選手だが、粘り強く上のポジションを取った湯浅選手にリバーサルの2ポイントが入る。そしてタイムアップとなり、湯浅選手が殊勲の勝利を挙げた。
以前、グラップリングルールでは塩田選手に一本負けしている湯浅選手。今回の柔術ルールでは一矢報いた恰好だ。ちなみに白帯・青帯の無差別級で優勝した志澄歌選手は湯浅選手の妹。この結果、姉妹揃ってアブダビ本戦出場という快挙となった。
女子の最後の階級、紫帯・茶帯・黒帯合同のヘビー級オープン(メジオ級以上)決勝は、茶帯の松島理笑選手と紫帯のクリスチアーニ・マキヤマ選手が対戦。松島選手が膝十字、腕十字と攻めたてアドバンテージを得た後、思い切った背負い投げで2ポイントを獲得。これを守り切った松島選手が嬉し涙の優勝を遂げた。
激戦を勝ち抜いた日本代表選手たちは、いよいよ4月、アブダビ本戦へと出発する。また、今大会を主催したJJFJは、日本から子供たち10名をアブダビ本戦に特別招待する。将来、子供たちの中から世界を目指す選手が現れるかもしれない。
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